John M.J. Madey によるFELの最初の論文(1971)-3

Madey が1971年にJ. Appl. Phys. に発表した論文について、さらに続ける。

Thomson and Compton scattering

Weizsäcker-Williams method(WWM)の考え方に従えば、電子と周期磁場(アンジュレータ)の相互作用は、電子の静止系における電子と仮想光子の相互作用に置き換えられる。つまり、電子による光子の散乱である。

電子と光子の散乱において、光子エネルギーが電子の静止質量(511 keV)よりも十分に小さい場合は、散乱による電子の反跳は無視できThomson 散乱(散乱の前後で光子のエネルギーが変わらない弾性散乱)となる。光子エネルギーが大きくなると電子の反跳の効果が表れ、Compton散乱となる。Madey の論文では、電子エネルギー20 GeV、磁場周期 1mm といった極端な場合でも、電子の静止系での仮想光子のエネルギーは十分に小さく、Thomson 散乱と考えてよいとある。

Thomson散乱の様子を下図に示す。

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Madey の論文中、式(6)にあるように、Thomson 散乱の微分断面積は、電子の古典半径r_0で表され、

    \[  \frac{d \sigma}{d \Omega} = \frac{1}{2} r_0^2 ( 1 + \cos \theta ^2) \]

であり、全断面積は \sigma _T= (8/3) \pi r_0^2 である。

Stimulated  Scattering

誘導放出(stimulated emission)は、よく知られているように、レーザーの原理である。プランクの黒体輻射の理論を説明するために、アインシュタインが存在を予言した現象、というのもレーザーの教科書に出ている。

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上図は、二凖位系の誘導放出(左)と吸収(右)を示したものである。
誘導放出では入射光と同じ位相、同じエネルギーを持った光子が放出される。
上の準位に多数の粒子がある状態(反転分布)を作ることができれば、誘導放出による光の増幅が起こる。すなわち、レーザーである。

Thomson 散乱、Compton 散乱の場合も、「あらかじめ、散乱光と同じエネルギーの光があった場合」に誘導放出が起こり、位相のそろった光が放出される。

Madey の論文は、このような「誘導散乱=stimulated scattering」として、自由電子レーザーを論じているのだ。

 

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