John M.J. Madey によるFELの最初の論文(1971)-11

Madey の1971年の論文に端を発した、FELの動作解析に関する量子力学と古典力学の論争について続ける。

Hopf -Meystre-Scully-Louisell論文


Classical Theory of a Free-Electron Laser

F.A. Hopf, P. Meystre, M.O. Scully and W.H.Louisell
Optics Communications, 18, 413 (1976)

4名の著者のうちHopf、Meystre、Scully は、Department of Physics and Optical Sciences Center, University of Arizonaの所属である。Scully は同じ研究科のWillis Lamb(ラムシフトでノーベル物理学賞を受賞)と共著でレーザーの教科書を書いている。Louisell はUniversity of Southern California の所属で、こちらも教科書の著者である。レーザー物理の大御所を含んだ4名による論文と言ってよいだろう。

Hopf らは、電子の縦方向位相空間における分布を計算する無衝突ボルツマン方程式とレーザー場の成長を計算するマクスウェル方程式を連立させる方法、つまり、完全な古典力学を用いてFELゲインを求めた。求められたFEL ゲインは、量子力学により求めた Madey の式とファクター 0.8 の差で一致した。Hopfら の結論は、「FEL の動作は古典力学で記述でき、電磁波の増幅は量子力学的描像=Compton 散乱の反兆というよりは、進行波管と同様の電子の集群作用で説明できる」というものだ。

これにより、FEL 動作解析における、量子力学 vs 古典力学の論争は決着した。意外なことに、この決着は Stanfordにおける最初のFEL 実験(CO2 レーザーの増幅)よりも後のことである。

ところで、この論文は、Opitcs Communications と Physical Review Letters に二重出版されている。PRL には Erratum が付き、

This paper was printed as a result of a misunderstanding, and duplicates material published elsewhere. Persons wishing to refer to it should cite the original publication, Opt. Commun. 18, 413 (1976), and not this journal.

とある。それぞれの投稿記録を見ると、Opt. Comm. が 1976年5月13日に投稿受け付け、9月号に掲載、PRL が同年8月13日に投稿受け付け、11月1日号に掲載である。”misunderstanding” とは、Opt. Comm. がリジェクトしたと誤解したのだろうか?現在のようなe-mail やオンラインによる投稿、査読システムのない時代であったにせよ、珍しい例といえよう。

上記の Erratum にもかかわらず、PRL の威光のためだろうか、二重投稿のPRL論文を引用する例が、いまだに後を絶たない。

ちなみに、第二著者の Pierre Meystre は2013年から、PRLの編集長(Lead Editor)を務めており、つい数日前には、以下のような編集コラムを発表している。

EDITORIAL

Refereeing Revisited

September 8, 2015

Pierre Meystre discusses how authors, referees, and editors need to work together for peer review to function well.

当然であるが、二重投稿を薦めるような一文は入っていない。

[追記:2016年11月30日] 

上の記述に間違いがありました。論文の二重掲載は、著者による二重投稿ではなく、Physical Review Letters 編集部の手違いが原因です。詳細は、この記事を参照。

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