John M.J. Madey によるFELの最初の論文(1971)-9

Madey の1971年論文に対する二つの批判について続ける。

Motz のアンジュレータ

1971年論文では、参考文献にMotz による2本の論文が引用されている。

1951年の論文は、周期磁場(アンジュレータ)を通過する電子ビームが発生する電磁波(アンジュレータ放射)のスペクトル、パワーの理論計算、1953年の論文はアンジュレータ放射の実験結果(Stanford大学で実施した)の報告であり、100MeV 電子ビームをアンジュレータに通した時の可視光の発生と偏光測定、3MeV電子ビームをアンジュレータに通した時のミリ波の発生とプリバンチ(バンチャーによる)の効果について記している。これら論文では、光(ミリ波)の増幅(誘導放出)を扱っていないので、FELではない。

Motz は、その後、1959年に、同じ装置で電磁波の増幅ができることを発表しているが、これは会議録(Polytechnic Institute of Brooklyn Symposium on Millimeter Waves)に査収されているのみなので、1971年当時にMadey が知らなかったとしても仕方がない。私自身も、入手できていない。

Phillips のユビトロン

Madeyの1971年論文は、Phillips のユビトロン(Ubitron)について言及していない。Phillips のユビトロンは、アンジュレータを使ったマイクロ波の増幅管である。外観はクライストロンと似ている。電子銃、入出力窓を備えた導波管、ビームコレクタが接続されており、導波管の外側に磁石列が取り付けられている。

History of the Ubitronによれば、1957年、X-bandの進行波管の実験中にユビトロンの原理を偶然発見した Phillipsは、1959年の電子管の会議で実験結果を報告し大きな反響をよび、その後、軍事予算などを得て 2.55GHz-54GHz の範囲で複数の増幅管を1965年までに完成した。

ユビトロンは、現在の FEL とまったく同じ原理に基づき、電子ビームのエネルギーを電磁波に変換する装置である。MadeyのFEL と違うのは、導波管を用いている点、電子のエネルギーが150keV程度と小さいため、相対論効果が現れない点である。Phillips の1960年の論文には、進行波に対する位相とエネルギーの2次元空間で電子がポテンシャルにトラップされる様子や、エネルギーと運動量の分散関係を示した図など、その後のFEL の解析と同様の図が載っている。つまり、古典論でユビトロン(FEL)の動作を説明できることが明確に示されている。

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